「とうとう見つけたぞ…」

丸一年かかったが、コーネリアはようやくギアスの力を掌握する嚮団の本拠地を突き止めた。
中華連邦の中でも外れに位置した砂漠のど真ん中。入り口近くに身を潜めたコーネリアは、そこで一心地をついた。
ここまで来るのに、随分と長い道のりだった。
武官ゆえの傷はあったが、それでも貴族だと一目でわかった滑らかな肌は、今では見る影もなく大から小まで様々な傷に彩られてしまっている。 その代わりに以前から心得のあった剣術は、実践的な戦闘で鍛えられ、数段キレが増した。

「ギアス…必ず、世界に引きずり出してみせる」

あの心根の優しかったユーフェミアを辱めたギアス。
たとえ何を失っても、何を犠牲にしてもコーネリアは、そうするつもりだった。
自分を心配しているだろうギルフォードやダールトンの遺児たち。
わかってはいても、心が、体が、ユーフェミアの汚辱を注ぐことに走らせる。
コーネリアにとって、ユーフェミアはたった一人。
ずっとずっと守ってきた、大切な『妹』だった。家族だった。

「ルルーシュ…」

自嘲を浮かべてコーネリアは呟いた。
それは、いとしい『妹』を殺した、きょうだいの名。
一年が経ち、幾分冷静に物事を考えられるようになって、ようやく最近ルルーシュの名前を口に出せるようになった。
以前ならば、名前を呟いただけで憎悪の炎で身が焦がれると思った。
だが、よくよく考えてみれば、あそこまでルルーシュが皇族を恨み、ナナリーの為の世界に拘ったのは、他でもないコーネリアたちブリタニアのせいだ。
マリアンヌ皇妃が亡くなった時、ルルーシュとナナリーの日本送致を誰も止めることはできなかった。コーネリアだとて手は尽くした。だが、それでも無理だったのだ。 父である皇帝の命令は絶対で、異母とは言え可愛がった二人の後姿を見送るしかなかった。

「恨んで、いたのだな…それほどまでに」

まさかルルーシュが自分達をあのように恨んでいるとは微塵も考えていなかった。
死んでいると思っていたし、何よりユーフェミアと同じくらい心優しい子だったから、あんな憎悪に身をゆだねるとは思いもよらなかったのだ。
だが、いま考えれば、どうしてそのように思えたのかコーネリアは以前の自分を嘲笑いたい気持ちだ。
数多く入る兄弟達の中でも群を抜いて頭のよかった、人一倍、母と妹思いのあの子。
そんな子が、突然母を、自分達の『家』で、しかも目の前で殺さて、あげく父親には「死ね」と言われたも同然の振る舞いをされたのだ。
いや、「死ね」と言われたも同然ではなかった。あの子は、確かに父皇帝に「死んでいる」と、その生を否定されたのだ。
そこまでされたルルーシュが、どうして皇族を、ブリタニアを恨まないでいられただろうか。

「どんな思いで生きてきたのか」

イレブンたちは排他的な民族としてブリタニアでは知られていた。
ただでさえそうなのだ。
ブリタニアとの開戦直前、イレブンはブリタニア人に対して殊更排他的になり、敵視するようになった。 ブリタニア貴族に歯向かう者はさすがに居なかったが、危険を顧みずに観光に行ったブリタニア人はことごとく酷い目にあったと聞いている。
そんな状況下で、一目でブリタニア人だと知れる紫の瞳を持つルルーシュはどのようにして生き抜いたのか。
恐らく、語るに尽くせぬほど屈辱的なこともあっただろう。
だが、きっとルルーシュは耐えたのだ。
ナナリーのためだけに。目も見えず、歩けもしない、一人では到底生きていくことが不可能な妹のためだけに、一心に耐えたのだろう。
もしもコーネリアが、ユーフェミアのためだったのならばそうしたように。

「似ているな、私達は」

コーネリアがルルーシュと同じ境遇におかれたならば、ブラックリベリオンを起こしたのは自分であったかもしれない。
安穏と時を過ごしているように見える兄弟達を恨み、この世界を支配する裏切りの祖国を憎み、愛する妹のために世界を再構築することを誓ったのかもしれない。
だが、そこまでのルルーシュの絶望や決意がわかっても、ユーフェミアをその手にかけたことは到底許せるものではなかった。
ルルーシュがナナリーを愛するように、コーネリアも己の全てをかけてユーフェミアを慈しんでいたのだから。

「マリアンヌ様が生きておられれば」

おそらく彼女が生きてさえいれば、コーネリアの世界もルルーシュの世界も、そしてシュナイゼルの世界も壊れることはなかったのだ。
すべてがあの人の死から壊れ始めた。
無意味なことだとわかってはいても、コーネリアは呟かずにはいられなかった。

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