「ル、ル、ー、シュ先輩!!」

ああ、また面倒なのが…。
生徒会室でクリスマスツリーにオーナメントを飾っていたルルーシュは心の中で頭を抱え、口元には何とか笑みを浮かべた。
誰か助けになるような人はいないかと生徒会室を見回してみるが、そこには誰もいない。
それもそのはず、ルルーシュ以外の生徒会メンバーはクリスマスパーティーに使う小物を探しに外へ出かけている。
ミレイから「ルルちゃんは体力ないから、部屋の飾り付け係よ!」と昨年使った飾り付け一式を渡されて現在にいたる。
面倒な買い出しに出かけなくてよかったのは大変結構なことだが、生徒会室でこんな面倒な相手と二人っきりにならなければいけないのなら、そっちの方がよほどましだった。
こんなことになるなら、残りたがっていたロロを無理やり引き止めておくのだった。

「ヴァインベルグ卿…今日はお越しになられないと…」
「ジ、ノ! って呼んでよ、先輩」

満面の笑顔で言うジノほど扱いに困るものはない。
貴族らしさを残しつつ大貴族には見えないジノは、学園の生徒から非常に友好的に見られている。しかし、ルルーシュは皇室にあった当時から大抵の大貴族にはいい印象を持っていない。 何よりジノはナイトオブラウンズという、目下ルルーシュ率いる黒の騎士団にとって一番の障害となっている。そのため、どうしたってルルーシュはぎこちない態度をとることしかできなかった。

「では、ジノ。なぜ、学校に?」
「会議が中止になってね。それよりも、これ。クリスマスツリー?」

同じ職務にあるスザクやアーニャが来ていないのに、途中から登校してくるとはよほど学園生活が気に入っているらしい。
ルルーシュは早く生徒会メンバーが戻ってくることを祈りつつ、口を開く。

「ええ。毎年、生徒会室に置いているんです」
「へぇ。やっぱりクリスマスツリーだったんだ。家にあったのは私の背丈の倍はあって、大きさが違うからクリスマスツリーじゃないのかと思ったよ」

はははは。と笑うジノに悪意はないのだろう。だが、ルルーシュにしてみれば悪意のない言葉だからこそよりむかっときた。

(お前の背丈の二倍以上だと! そんなもの、どこへ置くというんだ! それにこのクリスマスツリーだって一般的には大きい部類なんだぞ!)

ひくひくと口元がひきつったルルーシュを誰が責められようか。
ルルーシュが飾り付けていたクリスマスツリーは、2メートルはあるのだ。これが小さいというのか。

「あ、星が残ってる! 私がつけて見てもいいか?」
「…え、ええ。もちろん、どうぞ」

ジノは、ルルーシュの手元に残っていたてっぺんにつける星を見つけると輝くような笑みで尋ねた。
ルルーシュが答える前に星はジノが手を伸ばしていたが、正直、ツリーの頂点へと飾り付けられず椅子に登ろうかと考えていたところだったので渡りに船だった。
ジノは、ルルーシュからひょいと星を手に取ると、苦もなくそれをツリーへと飾り付け、とても満足げにツリーを眺めている。

「うーん。自分で飾り付けるって楽しいな」
「ご自分の手で飾り付けるのは初めてなんですか?」

言ってからしまったと思った。
自分が子供のころはナナリーと共に飾り付けをしたもので、ルルーシュは純粋にそう聞いてしまっていた。
だが、普通に考えれば貴族はそんなことは召使任せなのだ。案の定、ジノは困ったような顔をした。だが、少し寂しげな顔でもあった。

「私の家には確かに立派なツリーがあったけれど、アドベントになるといつの間にかあったんだ。私が飾ったわけじゃない。 子供の頃にやってみたいと母や兄に言ったら、あんなものはメイドたちに任せておけとしかられてね」

寂しげなジノの言葉が、ルルーシュには新鮮だった。
いつも能天気に笑っているジノにも弱い所があるのだと、ルルーシュは同情的な気持ちを持った。

「なら、こちらもやってみます?」

そう言ってルルーシュは机の上に放っておいたアドベントカレンダーをジノへと差し出した。
木の枠組みの中に飾りをつけられるように釘が打たれたクリスマスツリーが描かれ、下方にはそのオーナメントがおさまっている小さな扉がある。
アドベントになってから数日経っているが、出してきたのが今日だったのでまだ全部の扉が閉まっている。

「これは?」
「ご存じありませんか? アドベントの間、1日に一つこの扉を開けていくんです」

  そう言ってルルーシュは、数字のついた小さな扉を指で叩いた。
ジノは目を輝かせてルルーシュが差し出したカレンダーを見ている。

「中に小さなオーナメントが入っているので、それを毎日この上のツリーにかけていきます。そうして25日には綺麗にツリーが飾れるんですよ」

まるで子供に説明するような口調になってしまったが、ジノがまるっきり子供の反応を示すので仕方がない。

「私がやってもいいのか?」
「どうぞ」

ルルーシュが促せば、1と書かれた扉を開けてジノは小さな靴下のオーナメントを取り出した。

「全部、靴下なのか?」
「そんなわけありませんよ。他にもちゃんと違うオーナメントが入ってますよ」

苦笑してルルーシュが言えば、ジノは大きな手で器用に小さなオーナメントをツリーにかけた。
カレンダーを持ったままのルルーシュとの距離はとても近い。

「楽しいな」

たったこれだけのことだとは思うが、誰かと共にクリスマスの準備をするこが楽しさを与えるのだとルルーシュは知っていた。
でも、とジノが続ける。

「クリスマス前に全部開けてみたくなるなぁ」

ジノは、本当にやりたそうな表情を浮かべてそう言った。
それが、とても微笑ましくてルルーシュは思わず笑った。

「それでは、アドベントカレンダーの意味がありませんよ。……ジノ?」

くすくすと笑ったルルーシュの目の前でジノが目をまん丸にしていて、ルルーシュは怪訝な顔をした。
するとジノはまるで我に返ったように、顔を真っ赤にした。

「ななな、なんでもない!」

変なやつだと、まるで聖母のごとく柔らかに微笑んだルルーシュを見て放心していたジノの心など知りもせずおかしそうにもう一度笑った。





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