「めでてーな!」
「ちょ、玉城さん飲み過ぎですよ!」
「まぁまぁ、今日くらいはいいじゃないか」
さきほど午前0時をまわり新年を迎えた蓬莱島。
その一画にある黒の騎士団本部前の特設宴会場では、主に日本出身のメンバーたちがお節料理を前に酒を水のように飲んでいる。
典型的な酔っ払いとなっている玉城は「一番、玉城歌います!!」と、酒瓶をマイクに仕立てて大声で叫び、ラクシャ―タ―が面白がってはやし立てる。
いつもはストッパーの役目をする扇も今日ばかりは休業か、騒ぐ玉城を止めようとしたカレンを宥めている。
と、このようにお祭り騒ぎになっている人々もいるが、中にはひときわ静かに新年を迎えた者たちもいた。
場所は騎士団のトップ、ゼロの部屋だ。
そこには、ゼロであるルル―シュと実質、現在中華連邦トップの黎星刻の姿がある。
元日だといっても、二人の様子が変わるわけではない。
星刻は難しい顔で書類を睨みつけているし、ルルーシュはルルーシュで先日手に入れたシャンパンを楽しんでいる。
唯一、正月らしさがあるのはテーブルの上にある重箱に美しく盛りつけられたお節料理だけだ。
もちろんルルーシュのお手製の料理だ。
ブリタニア人であるルルーシュがどうして日本のお節料理を?という疑問があるが、どうやら何事も完璧を追い求めるルルーシュが趣味で手を伸ばした結果らしい。
いつもならここに魔女C.C.がいるのだが、餅を使った創作ピザを作るという沙世子と共に調理室へ行っているためにここにはいない。
ロロも餅をつくのに男手が必要だと言われて駆り出されている。
C.C.と沙世子がいるならば男手、しかもロロの手などを借りなくても何の問題もないだろうと誰もが思ったが、沙世子の有無を言わせぬ態度にルルーシュ大好きで片時も離れたくはないロロも沙世子に引きずられていくしかなかった。
そういうわけで、ルルーシュの私室には星刻とルルーシュの二人きりだった。
「やはりこのワイナリーのものは格別だな」
ルルーシュはゴールドに透き通ったグラスを眺めて呟く。
静かな室内には嫌にルルーシュの声が大きく響くが、星刻はちらりともルルーシュに視線をよこさない。
星刻がさきほどから熱心に目を通しているのは、今月末に行われる天子誕生祭にまつわる書類だ。
おそらくその誕生祭の采配をどうするかに心を傾け過ぎて、ルルーシュの言動など目に入っていないのだろう。
それが腹立たしい。
だが、その時ふとルルーシュは自分が星刻の誕生日を知らぬことに気づいた。
疑問がそのままになっていることを好まないルルーシュは、何気ないふりを装って口を開いた。
「そういえば、お前の誕生日はいつだ?」
ルルーシュの問いに星刻は視線を動かすことなく淡々と答えた。
「12月31日だ」
「……過ぎているじゃないか」
つい先ほど終わってしまった大みそかが、星刻の誕生日だったようだ。
まったく誰もそんな素振り…いや、そういえば香凛が通信を入れてきたとき星刻が「心づかい…礼を言う」と苦笑しながら言っていたと思いだした。
「いまさら祝う歳でもあるまい」
過ぎていると、拗ねた言いようになってしまったと自覚していたルルーシュだが、星刻の態度はまったく変わらない上、答えた声も平坦だった。
ますます余計にルルーシュの機嫌が下降していく。
あまりに淡々としている星刻の態度が気に入らず、ルルーシュは手に持ったままのグラスをあおると、すくっと立ち上がった。
そのまま星刻の目の前に仁王立ちになり、ぴっと星刻が読んでいた書類を取り上げて放りなげた。
「っ…何を…!?」
星刻は文句を言おうとしたが、その口は柔らかいルルーシュのそれで塞がれてしまった。その上、星刻の口腔にはルルーシュから口うつしで舌を刺激する液体が流れ込む。
もちろんそれは、先ほどルルーシュが飲んでいたシャンパンだ。
突然のことで驚いた星刻は、咄嗟のことに心構えのないままシャンパンを飲みこんでしまい、ルルーシュが唇を離すと盛大にむせた。
「けほっ…ルル、シュ!!」
ルルーシュは口付けの間に星刻の首に両腕を回し、その膝の上に横座りになっている。
目の前に迫った美麗な顔を避け、星刻は呼吸を整えながら満足した表情を浮かべているルルーシュをにらんだ。
「どうだ? 滅多に手に入らないワイナリーのシャンパンだ」
睨まれたルルーシュは厳しい星刻の視線などものともせずいい気味だというように嫣然とした微笑みを浮かべる。
ルルーシュが滅多に手に入らないというほどのものなのだから美味な酒であることは間違いないが、星刻には味わう暇があるはずもなく、ルルーシュの質問に星刻は渋面を作った。
「味などわかるか。悪ふざけが過ぎる」
その言葉で眉間に皺を刻んだルルーシュだが、口元を手で覆い顔を背けた星刻の耳がひどく赤いことに気がついて再び艶やかな笑みを浮かべた。
ルルーシュは星刻の首にやった腕をより一層自分の方へと引き寄せて、星刻の視線を自分の方へと向けさせる。
「過ぎてしまったが今から祝いの品を贈ろうか?」
完全にからかい口調でルルーシュが問うと、始め星刻はルルーシュが面白がっていることに対してだろう顔を赤くしながらも苦い顔をしていたが、ふと思いついた表情になってにんまりと先ほどのルルーシュと似たような笑みを浮かべた。
「そう言うなら今すぐいただこうか?」
「いますぐ?」
怪訝な顔つきでルルーシュが問い返せば、星刻は自分の膝の上にいたルルーシュをそのまま抱きあげた。
突然のことで驚いたルルーシュは、星刻の首に回したままだった腕に力を込めて縋った。
「星刻、いったいな…」
ルルーシュは途中まで言いかけた言葉を止めた。
星刻の足が向かう先にあるのが、寝室だと気がついたからだ。
(このムッツリスケベめ…!!)
声には出さずルルーシュは星刻を罵った。
だが、ほかならぬ自分自身が誕生日プレゼントになるなどとロマンチックなことを考える星刻に悪い気はせず、ルルーシュは大人しく口をつぐんだ。
その代わりに。
「星刻」
「なんだ?」
「誕生日、おめでとう」
肝心の一言を、自分にできる最高の笑顔で言ってやった。
Happy Birthday, Xing-ke!!
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