ちょっと趣味がわるい話だよ!スザクくんが可哀想かもしれない。
視点は機密情報局の名もない兵士です。



「あ」

あ、と思った時に声は出ていた。

「なにか問題でも?」

声を聞き咎めたクルルギ卿が、不機嫌も露わな声で尋ねてくる。
先ほどから視線を手元の書類の束に視線をやっていたから、それを邪魔されて嫌な思いをされたのかもしれない。

「いえ、問題…といいますか…」

私は返答に困った。
ルルーシュ・ランぺルージの監視を開始して一年と三か月が過ぎた。
その間、これといって問題などなかったのだが、最近、というかここ二三日で大変な問題が持ち上がっていた。特に、ルルーシュ・ランぺルージの部屋で。
問題。
むしろこの問題がこの一年間の間に持ち上がらなかった方がよくよく考えてみれば不思議だが、とにかく大変な事態が巻き起こっていたのだ。
この問題が私たちの最終目的『魔女捕獲』に影響することはないだろうが、どう考えてもナイトオブラウンズの中でひと悶着を起こしそうなものであった。

『ジノ…ちょ、ここじゃ…』
『どうして、先輩?』

ああ、始まっちゃった…。
甘ったるい、どう聞いても恋人同士の囁きにしか聞こえない声がモニターから流れてくる。
ジノ、という同僚の名前にクルルギ卿は視線をモニターによこした。
その眼が一瞬にして冷酷なものになったことを私はここに明記する。

『あ、ジノ…』
『先輩、黙って…』

とさっ、とジノ・ヴァインベルグ卿がルルーシュ・ランぺル―ジを今まで座っていたベッドに優しく横たえた。
横たえたと言うか、簡単に言えば押し倒した。
しかも押し倒した上に、いろいろと言ってヴァインベルグ卿を止めようと言葉を紡いでいた唇を自分のそれでふさいでいた。
ついでとばかりに卿の片手は太ももに回って、もう片方はしっかりと細い顎を捕まえている。

『んっ、ちょ、んん…』
『嫌がんないで先輩…私、あなたの全部が欲しいんだ』
『で、でも…』
『先輩…』

口では嫌々と言うのだが、ほっそりとしたルルーシュ・ランぺルージの腕はしっかりとヴァインベルグ卿の背中に回っている。
ようやくヴァインベルグ卿は、唇を離すと嫌がる理由を言ってみて、と促した。

『でもここじゃ…』

いつもジノのこと思い出さなきゃならない…。
消え入るような小さな声だったが、高性能のマイクはルルーシュ・ランペルージのその声を拾い上げていた。
私はあまりにも糖度の高い二人の会話に、そこへつっぷしたくなった。
だが、つかつかとモニターの傍までやってきたクルルギ卿の手が私が座る椅子の背もたれをわし掴んだ音で身動きがとれなくなった。
すぐそばに感じるクルルギ卿のオーラは、その時、絶対零度だった。

『先輩!!』
『も、ちょジノ!!』

普通そんなことを言われた男は止まれない。
モニターのなかのルルーシュ・ランぺルージは、喜々とした声をあげたヴァインベルグ卿に一枚一枚というか、一気に白い肌を晒すまでに服を剥かれていた。

「これはどういうことだ」

ぎりぎりと椅子の背もたれを掴むクルルギ卿を振り返ることはできなかった。
無礼だとは承知していたが、私は自分の命が惜しかった。

「はっ。報告によりますと、三日前の午後8時にヴァインベルグ卿が対象を尋ねて交際を申し込んだようです」

その後の行動や、ヴァインベルグ卿のことも含めましてクルルギ卿に判断を仰ぐ旨をお送りしたのですが。
前日の担当者から申し渡されたことをそのまま伝えた。
しかし、どうやらその報告はクルルギ卿の元までは届いていなかったようである。
エリア11の総督補佐まで務めているのだから、そんなこともあるだろうな、と私は冷汗をたらしながら卿が放って来た書類の束を横目でみやった。
そうこうしているうちに、モニターの中ではルルーシュ・ランペルージがことさらに甘い声をあげだした。
思わず私も前かがみになりそうなつやっぽい声と痴態だった。
そう言えば前日の担当者が
『不覚だが、気をつけろよ』
なんて少し赤い顔で言っていたことを思い出した。
いったい何のことだかさっぱりだったが、これで合点がいった。

『…っは、ん…も、だめ…』
『だーめ。もうちょっと、我慢してね、先輩』
『っ!こっの、だけ、んんっ!!』

ののしる言葉もやたらに濡れて、全然本来の役目を果たしていない。
ばきっと、嫌な音がした。
恐る恐る背後を振り返れば、私が座っていた椅子の背もたれが拳の形に割れていた。
怖いもの見たさだったのだろうか、私はそのまま拳の持ち主の顔を見上げてしまった。
――――ひっ!
すんでのところで声を殺した自分を褒めてやりたいと思う。
はっきり言って目の前のクルルギ卿は今にも人を殺しそうな顔をしていた。
私はそこに『白い死神』の姿を確かに見た。

「―引き続き、対象の監視を怠るな」

まるで地獄の底から響いてきたかのようなおどろおどろしい声が耳に入った。
それがクルルギ卿の声で、私への命令だと言うことに気が付くのにたっぷり30秒はかかったと思う。
あの今にも射殺されそうな瞳を投げかけられて私は現実に戻ってきた。

「はっ!!」

私はその場で立ちあがって、敬礼までして命令を受け取った。
クルルギ卿は、そのまま背を向けて監視室から出ていった。
その背が見えなくなるまで私は敬礼を続けていた。

『も、ちょ、ゆっく、り…』
『さっき、急かしたのは…っ、と…せんぱい、だよっ』

室内には愛を交わし合う恋人たちの声だけが響いていた。

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本当は最中に「ばか、ゴムつけろ!」
「いやだよ」
っていう押し問答があって、事後にすねるルルを後ろからジノが抱き締めて
「先輩の気持ち無視してごめんね。でも、貴方との子供が欲しいんだ」
「…」
「私なら貴方と子供、ちゃんと養っていけるよ」
「…」
「いま妊娠しても、産まれるのは先輩が卒業してからでしょ」
「…」
「まあそしたら、卒業式には大きいお腹で出てもらわなきゃいけないんだけど」
「…」
「ね、ルルーシュ。学園を卒業したら私の花嫁になってくれないかな?」
っていうプロポーズ話になる予定でした。

ということで、これはルル子さんを想定して書きましたが、お好きにルル男さんを想定してもらってもかまいません。
声だけだから、どっちでも置き換え可能です。