『私が第99代皇帝 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアです』

つややかな微笑みと共に発せられた言葉が、理解できはしなかった。
行方知れずになっていたブリタニア皇帝からの演説があると全世界に生中継された場。そこに現れたのは、この1か月、自分が血眼になって探してきた人だった。

「そんな、馬鹿な…」

その場の誰がつぶやいたのだろう。
もしかしたら一人だったかもしれないし、二人だったかもしれない。
だが、その言葉が皆の心を代弁していたことに間違いはなかった。

「ルルー、シュ…」

1ヶ月だ。
行方が分からないと言われ、周囲の反対を押し切って捜索した。
真実を聞かされた後、式根島、そこから足を延ばせる範囲をくまなく探した。 蟻の一匹すら見逃さないようにと目を光らせて探させたが結局は、その足取りすら掴めず。
既に、この世にはいないものなのかと諦めかけていたのだ。だが、ルルーシュは生きていた。
その美しさを少しも損なわずに。
画面の中では、整列した皇族と貴族たちがルルーシュの「皇帝を殺した」という発言により一層ざわめき、ギネヴィアの命により衛兵たちがルルーシュを捕えようと駈け出した。

『紹介しよう。私の騎士、枢木スザクだ』

けれど、衛兵たちは天井から舞い降りてきた男によって蹴散らされ、命令を遂行することができなかった。
そして、彼はそれが当然であるかのように、ルルーシュの傍に寄り添い、ルルーシュもまた以後みしりおくよう「自分の騎士」だと彼を紹介した。
そう、ルルーシュが自分の腕の中にあってすら、心の奥底で決して忘れることがなかった男、枢木スザクを。

「……」

自分がいる場は、みな息が止まったかのように画面だけを注視している。
ルルーシュが叫ぶと、会場は今までのことが嘘のようにルルーシュを讃える言葉を口にし始める。
「All-hail Lelouch!!」とブリタニア特有の一糸乱れぬ唱和がルルーシュのために唱えられる。
その中で、ルルーシュは人が魅了されずにはいられない、あの微笑みで語る。

『我が臣民よ、私はここに二つの命を下す。 ひとつは、我が領土を占領せんとする「黒の騎士団」の殲滅。 そしてもうひとつ、そ奴らと手を組みし帝国宰相シュナイゼル・エル・ブリタニア、第二皇女コーネリア・リ・ブリタニア、両名の捕縛および、両名に加担した旧ラウンズの拘束』

ルルーシュの言葉に、場に緊張が走る。
だが、私にとってはそんなことなど塵芥に等しいことだった。

『討伐軍の指揮は、ナイトオブゼロ、枢木スザク、そなたに命じる』
『Yes, your majesty』

ルルーシュが差し出したほっそりとした手に、跪いたスザクがとり口づける。
その様を見て、荒れ狂う自分の心を抑えることに必死になっていたから。
何度となくルルーシュとは、口づけを交わし、体さえ重ねた。
何度となく、愛さえ告げた。
だが返ってくるのは、必死に寂しさを隠した皮肉と泣き笑いに似た嘲笑だった。
なぜルルーシュが自分の手をとらないのか知っていた。
ひとつは確かに、ルルーシュが守りたいもののためだった。 だが、それに加えてもう一つ、ルルーシュはついぞその口から真実を語ることはなかったが、その心には既に別の男がいたからだ。
全てを否定されても、まだ忘れられずにいた男。
目は口ほどにものを言う。
その眼が、どこを見ているか、私は知っていた。

『さあ、我がブリタニア帝国よ、その力、大いに世界へと示せ!』

ルルーシュ。
私が、たった一人愛をささやいた人。
君は、忘れられなかった男の手をとって幸せなのだろう。
だが、君のその幸せを、この手で壊し、君をさらってもいいだろうか。
私の幸せは、君なしでは得られないんだから。

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